新型コロナウイルスの感染予防のため、全国の裁判所で傍聴できる座席を制限する対策がとられている。最高裁は10月下旬、制限の緩和を通知したが、憲法が保障する「裁判公開の原則」と感染防止策のバランスをどうとるか、なお模索が続く。(阿部峻介、遠藤隆史)
「もうアウトや。こんだけ並んでたら入られへん」
今夏、ある恐喝事件の公判を見ようと、大阪地裁を訪れた60代男性が見た光景は法廷の外にずらりと並ぶ傍聴希望者の列だった。その法廷でおよそ40席ある傍聴席は、新型コロナウイルス対策の「ソーシャルディスタンス」をとるため傍聴できる席が15席ほどに制限されていた。男性は開廷時間の10分以上前に着いたが、傍聴のために法廷が開放されると、先に並んだ人たちが次々と座り「満席」になった。
男性は傍聴が趣味でたびたび地裁を訪れていた。「まさか、あれだけ早く来ても見られないとは思わなかった。早く元通りにしてほしい」と話した。
傍聴席の制限は、コロナ感染が国内で広がり始めた3月、最高裁が出した通知がきっかけだった。政府や世界保健機関が示した指針をふまえ「1メートル程度の間隔を空けて着席」とした内容。大阪地裁・高裁では、傍聴者同士がおおむね1メートルの間隔をとれるよう、左右は2席程度の間隔を空け、前後も重ならないよう制限した。
しかし、原告数が多かったり、注目度が高かったりする訴訟では、関係者らが傍聴席に座れないケースが各地で頻発した。東京地裁では9月、集団訴訟の原告らが「傍聴する権利の保障」を求める要請書を提出した。
最高裁が頭を悩ませるのは、不特定多数の人が出入りする裁判所での防止策実施の「難しさ」だ。担当者は「クラスターが発生すれば、法廷を一時閉じる事態にもなりかねない。マスク着用や検温などの完全実施は簡単ではない」とする。
こうしたなか、憲法が保障する「裁判公開の原則」は大切だとして緩和の道を探り、専門家に法廷を見てもらって助言を受けるなどし、10月26日、傍聴席の使用制限を約3割から約5割に緩和するよう各地の裁判所に通知した。これを受けて大阪では同28日から、傍聴できる席を1席おきにするよう制限が緩和された。
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル